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第2回バイオマス・アジア・ワークショップ

報告者:松村 幸彦
開催日時 : 2005年12月13日(火)〜12月15(木)
場   所 :バンコク  センチュリー・パーク・ホテル

<第1日目>

第2回バイオマス・アジア・ワークショップがバンコクで12月13日(火)〜15日(木)で開催されています。
会場は、センチュリー・パーク・ホテルです。

この会議は、今年1月に東京とつくばで行われた第1回のバイオマス・アジア・ワークショップに続くもので、
3年間の文部科学省のバイオマス・アセアン・プロジェクトの枠組みで行われており、次回が最後となる3回連続の第2回に相当します。
なお、第1回のバイオマス・アジア・ワークショップは、文部科学省のこのワークショップと、農林水産省の事業の協同主催でしたが、
今回は、農林水産省事業は別途日本で2006年1月に、ワークショップと相補的な位置づけで、東京で開催することとなっています。
初日13日の報告です。

最初に、タイ科学技術省のRattanapian、農林水産省のSone、タイの農業省のImpitahuk、同じく科学技術省のTridech、
産総研のNakajimaから挨拶があり、各国のバイオマスの政策と研究開発の状況について報告がありました。
その後、基調講演と、産業界、バイオマス利用についての報告がありました。以下に概要を報告します。

<各国報告(政策とバイオマスR&D)>
司会:Jirdsak Tscheikuna, Masayuki Kamimoto
Conrado Heruela (FAO) FAO-Promoting and building capacities for modern bioenergy
様々な分野が協力して進めるバイオマス分野なので用語の定義から始める必要がある。FAOのプロジェクトの紹介。
Sat Samy (Cambodia) Country report on Cambodia
カンボジアの状況の説明。バイオマスを用いて地域の電化を進めたい。NEDOによるマスタープランや、
世界銀行のプログラムなどを進めている。
Kong Yuan (China) The Renewable Energy Development Strategy in China
中国のバイオマスの状況。稲わらブリケットやメタン発酵が用いられている。
Cheng Yong (China) The Renewable Energy Development Strategy in China
上の発表の続き。エネルギー・セキュリティ、地域経済、温室効果ガス対策のために利用。
バイオマス資源としては、700〜800石炭換算tがある。
Wahono Sumaryono (Indonesia) Policy and R&D on biofuels and biomass in Indonesia
インドネシアの政策では、再生可能エネルギーに基づいたエネルギー・セキュリティを進める。
2025年には1次エネルギーの20%をバイオ燃料とバイオマスでまかなう方針。

<各国報告(政策とバイオマスR&D−継続)>
司会:Surapol Wattanawong, Yutaka Mori
Tetsuaki Nagamine (Japan) Biomass-Nippon Strategy
バイオマスニッポン総合戦略の紹介。4つの目標に向けてバイオマスタウンの構築などを進めている。
Bouathep Malaykham (Laos) Brife country report for biomass in Laos PDR
ラオスにおける状況。2005年に電化率45%、2010年に同70%、2020年に同90%を目指す。製材所や精米所での利用を考える。
Hamdan bin Mokhtar (Malaysia) Country report of Malaysia
マレーシアではパーム油、林地残材、籾殻などの利用が考えられる。特にパーム生産では多くの副産物が発生。
U Kyaw Soe (Myanmer) Country report of Myanmar
ミャンマーでは嫌気性発酵が用いられており、動物の糞は31 Mt/年発生。ヤンゴン技術大学で研究も進められている。
Mario C. Marasigan (Philippine) The Philippine biofuels program
フィリピンはエネルギー自立政策で天然ガスやココヤシ油のメチルエステルなどを利用。
ココヤシ・バイオディーゼル・プログラムでは国内の規格を決定。燃料エタノールプログラムでもエタノール燃料の規格を決定。

<各国報告(政策とバイオマスR&D−継続)>
司会:Siriluch Nivitchanyong, Koichi Yamamoto
Chul Ho Kim (Korea) Policy and R&D on biomass
韓国では2011年にバイオマスエネルギーを3%から7.8%とする政策で、バイオガス、埋め立て地ガス、バイオディーゼルなどの導入を進める。
Boonrod Sajjakulmukit (Thailand) Country report of Thailand
タイでは、経済的負担、エネルギー・セキュリティー、環境保護、貧困問題などのためにバイオマスの導入を進める。
2003年9月の閣議決定で、最終エネルギー利用の8%を再生可能エネルギーでまかなう方針。
Nantawan Sarobol (Thailand) Country report of Thailand
上の発表の続き。タイでは、ガソホールとバイオディーゼルの導入も進める。このため、キャッサバやサトウキビ、アブラヤシの生産を進める。
Tran Dinh Man (Vietnam) Country report of Vietnam
ベトナムでは2020年までに61 Mtのエネルギー需要。人口の2/3が地域に居住、これらに対してバイオマスの利用を。
Lai Thuy Hien (Vietnam) Country report of Vietnam
上の発表の続き。バイオマスは調理や肥料として用いている。農業残さの利用など。
ベトナム科学技術アカデミーではセルラーゼ生産菌の研究など。

<基調講演>
司会:Paritud Bhandhubanyong, Kenichi Tomizawa
Sakarindr Bhumiratana (Thailand) Thailand: Center for Asian biomass promotion
エネルギーと持続可能性のためにバイオマスの利用を。このために地域間協力が必要であり、
短期の成功は緊急かつ強い政策が、長期の政策のためにはR&D&Eと人材育成が必要。

<産業界からの報告>
司会:Paritud Bhandhubanyong, Kenichi Tomizawa
発表者不明 (Thailand) CDM implementation in Thailand
CDMへのタイの対応の紹介。現在、手続きが複雑なのでこれを簡素化する方向。良いPDD(計画設計書)がうまくいく鍵。
Hiroyuki Fujimura (Japan) Economic System and industries in the future
トリレンマへの解決として、省エネルギー・省資源、再利用、地域経済、リサイクルなどを進めること。
TLCC(全ライフサイクルコスト)を用いた評価が重要。
Kosol Jairungsee (Thailand) タイトル無し
タイで産業の用いるエネルギーは全体の37%。この中の製造業は20.7%が新または再生可能エネルギー。
エタノール生産やバイオマス燃料による蒸気発電を行っている。

<バイオマス利用に関する報告>
司会:Peesamai Jenvanitpanjakul, Yoshiyuki Sasaki
Ratanavalee Inochanon (Thailand) タイトル無し
タイのE10について。1985年からパイロットプラントをつくり、導入に向けて検討をスタート。
2007年1月には現在のオクタン価95のガソリンを全てガソホールに、2011年1月にはオクタン価91のガソリンを全てガソホールに。
インフラに金がかかるが、税を免除することによって政府が負担。
Takashi Saiki (Japan) Development and evaluation of a cellulose-ethanol conversion process based on highly efficient
ethanol fermentation using flocculent-arming yeast
セルラーゼの機能を細胞表面に持たせた酵母であるアーミング酵母を用いて高効率にエタノールをセルロースから得る技術開発の紹介。
Bi Jicheng (China) Co-gasification of biomass
石炭ガス化プロセスでバイオマスを共処理する研究。30%までの混入であれば流動層も安定に運転でき、石炭のガス化に良好な結果。
Yuji Nakajima (Japan) Introduction of bioenergy conversion development in NEDO
NEDOでのバイオマス関連事業の紹介。高効率バイオマス変換プロジェクトならびに海外でのバイオエネルギー普及事業。
Morihiro Kurushima (Japan) Chanllenges on ner technologies for a sustainable energy system
再生可能エネルギーの方が従来エネルギーより高コストであり、技術開発と市場の開発によってコストの低下を進めることが必要。
日本とタイでDMEを用いてCDMを得る計画の実現可能性の検討の紹介。

初日は以上です。


<第2日目>

第2回バイオマス・アジア・ワークショップの2日目の報告です。この日は、パラレルセッションでパネルディスカッションが進められ、
最後にまとめのセッションが行われました。セッションは以下の通りです。

1. バイオマスの資源量(1) 持続可能なバイオマス生産と利用:ポテンシャルと可能性
2. 自動車用バイオマス燃料
3. バイオマスの資源量(2) 東南アジアにおける木質バイオマスの利用法
4. 未来のバイオエネルギーのためのR&D
5. バイオマスの利用
6. LCA
とりまとめのセッション

松村の出席したのは2、3、5、とりまとめ、ですので、これらについて報告します。
1、4については柳下様から報告いただけることになっています。6については、どなたか出席しておられれば、お願いできれば幸いです。

<自動車用バイオマス燃料>
司会:Paritud Bhandhubanyong
Nhuyrn Cusn Vhusn (Vietnam) Vietnam's project of development of biofuels to 2015 vision 2020
ベトナムでのバイオマス燃料の原料には、米、トウモロコシ、ジャガイモ、タピオカなどがあり、
導入に向けてインフラ整備、人材育成、原料生産区域の決定などを進めていく。
Shinichi Goto (Japan) Standadization and upgrading of biodiesel fuel quality
パーム油からのバイオディーゼルは耐酸化性に優れるが、12℃で固化することが問題。
バイオエタノールの不純物混入については2006年3月を目処にJASO規格を作成しているところ。
Ma Longlong (China) Development of liquid from biomass in China
中国ではE10の導入が進められており、4カ所のエタノール生産プラントで1 Mt/年のエタノールを生産。
バイオディーゼルについては酵素を用いた生産技術を開発中。
Adisak Wangphongsawasd (Thailand) Biomass fuel for vehicles: Solutions to the world's energy needs
フォードでの取り組みの紹介。タイでE10を導入すれば、470億バーツの外貨節約となる。地域にあった穀物を生産することが望ましい。
Samai Jai-in (Thailand) コメンテイタ
ここまでの発表をまとめ、バイオマス燃料を進めていくべきと。国際的な協力の必要性を強調。
Olivia la O Castillo (Philippines) Renewable resources and energy in the Philippines
フィリピンでは2年後にE5が導入され、4年後にはE10が導入となる。このため、サトウキビ畑を20万ha広げる。

<バイオマスの資源量(2) 東南アジアにおける木質バイオマスの利用法>
司会:Nikhom Laemsak
Chu Fuxiang (China) Utilizationof woody biomass in China
中国では森林の残材が800-1000 Mt/年発生。各種の変換利用が可能。
Denny Irawati (Indonesia) Woody biomass potential as source of energy in Indonesia
インドネシアでは木質バイオマス残さが5470万m3発生。薪や木炭として利用。
Hirofumi Kuboyama (Japan) Status and problems of wood-biomass utilization in Japan
日本では森林のバイオマスが高く、建築廃材系でないと経済的に合わない状況。
Koh Mok Poh (Malaysia) Current status of biomass utilization in Malaysia
マレーシアでは国土の2/3が天然林。木質残さは980万m3発生。
林地残材がこの中の510万m3を締めるが持ち出すと税金がかかって経済的に見合わないので持ち出せない。
Pham Chuong Van (Veitnam) Prospect of woody biomass utilization from plantation resources in Vietnam
ベトナムでは薪としての要求が高く、山岳地帯、中間地、都市部でそれぞれ700, 500,300 kg/人・年が必要。
Nikhom Laemsak (Thailand) The utilization of woody biomass in Thailand
司会でもあるが、講演も。タイでは、家具や部品、パルプ・紙、建設資材、エネルギーとして木質バイオマスを利用。
全体で6600万m3 = 40 Mt。

<バイオマスの利用>
司会:Peesamai Jenvanitpanjakul
Ahmad Ibarahim (Malaysia) Utilization of oil palm biomass: Malaysia's experience
マレーシアでパーム油をエネルギー利用に用いることによって、過剰生産時の油の価格低下を抑制し、また空果房を利用する可能性。
Bandit Limmerchokchai (Thailand) Biomass power generation planning in Thailand: The least-cost analysis and GHG
mitigation
タイのバイオマスを用いて発電を行う場合の最安価なシステムの検討。
Ken-ichi Tomizawa (Japan) The forest formation as biomass reproduction system
遺伝子組み替えによって成長速度を向上させた樹木について、花粉繁殖と種子繁殖を抑制する可能性の紹介。
Seiichi Aiba (Japan) Utilization of biomass to materials
バイオマスを用いて得られるプラスチック類とその可能性の紹介。
Tran Mins Tuyen (Vietnam) Biomass utilization in Vietnam
ベトナムでは8.5 Mtの木質に相当するバイオマスを産業で利用。各種の利用を検討。
Wirachai Soontornrangson (Thailand) Composite construction material from fibrous biomass: A feasibility study
バイオマスを前処理−溶解処理−成形−冷却圧縮してつくるバイオマス繊維による複合建設材料について検討。強度が不足するが、
アンケート調査では自然にやさしい素材として歓迎する声が高いと。
全体討論
各種の利用法があり、エネルギーか、マテリアルかという議論もあるが、リサイクルとカスケード利用を行うことも視野に入れ、
LCA的な評価を忘れない利用の推進が必要であろう。

<とりまとめのセッション>
司会:Paritud Bhandhubanyong, Takayuki Matsuo
Atsushi Fukuda (Japan) Promotion on clean development mechanism in transport sector and bio-diesel fuel project
perspectives in Thailand
タイで輸送用燃料にバイオ燃料を導入することについてCDMの認証を得る試み。

各セッションの司会から内容の報告があり、これを取りまとめる形で司会総括が行われた。この内容は、以下の項目についてまとめられた。
1. バイオマスの利用と技術開発の重要性
2. 第1回並びに第2回バイオマスアジアワークショップで確認、強調されたことの理解
3. 持続可能な成長のための将来のバイオマス・アジアの方向性;以下の点が上記に加えて認識された。
3.1 効率的かつ持続可能なバイオマス利用の技術とシステムの立ち上げ
3.2 相補的なR&D協業とアジアのパートナーシップ
3.3 アジアにおけるバイオマス利用のためのアクションプランの立ち上げ

Mastuo司会より、上記のとりまとめについては22日まで意見をまとめて最終版をwebに掲載すること、
第3回WSは東京で開催の予定で詳細は後日連絡があること、関連行事として農林水産省が主体となって
1月19-20日に東京の国連大学でバイオマス・アジア・フォーラムがあること、が報告された。

Nongluck Pankurddee (Thailand) から閉会の言葉があり、閉会した。


今回のワークショップは、日本からもタイからも多くの参加者があり、かなり盛会でした。参加者については、
リストを入手し損ねたために正確な人数がわかりませんが、250人程度の規模かと思います。

アジアのバイオマスについて、各国とも導入に熱心であり、特に自動車用燃料への混入はかなり進んでいることがわかります。
これは、特に発展途上国にとっては外貨節約という大きな意味があるようです。
すなわち、どうしても石油を購入しなくてはならず、そのための外貨を一生懸命稼いでいる状況の中で、
国内資源をエネルギー利用できればその分、貴重な外貨を用いて石油を買わなくて済む、という差し迫ったニーズがあるようです。
自動車用燃料にエタノールやバイオディーゼルを混入する燃料については、自動車業界、石油業界にも考えはあろうかと思いますが、
日本だけがかなり遅れる状況になりそうです。

一方で、CDMの利用がかなり詳細に議論されており、すっかり当然の戦略として考えられるようになってきています。
また、議論の中では生物多様性についてもかなり対応ができてきており、基本的には森林保護区を確定して、
それ以外のところで開発を進めるという枠組みができつつあるようでした。
また、特に発展の遅れている国は、地域の電化などにバイオマスを使っていきたいという希望があります。

上記ようなアジアの国々のニーズをしっかり踏まえてバイオマス利用技術の適用を図っていくことが、
「競争力ある戦略的産業の育成」の観点からは重要と考えられます。

以上です。